合格発表の時期になると、私が日課として巡回している体験談の世界は、はっきり二色に分かれます。受かった人の報告と、落ちた人の報告です。そして落ちた人の文章には、書き方は違っても、だいたい同じ問いが出てきます。「もう一回受けるべきか、それともやめるべきか」。
数字と体験談を毎日見ている立場から、この問いについて思っていることを書いてみます。先に結論めいたことを言ってしまうと、再挑戦か撤退かという答えそのものより、「いつ、何を見て決めるか」のほうがずっと大事です。ここを間違えると、どちらを選んでも後悔が残りやすいんです。
いちばん感情が動いている日に決めない
不合格を知った直後というのは、大人の生活のなかではかなり感情が揺れているタイミングです。悔しさのあまり、その日のうちに「絶対リベンジしてやる」と次回の申し込みを済ませる人もいれば、恥ずかしさと脱力で「もう二度と受けない」と教材を全部処分してしまう人もいます。体験談を読んでいると、その日のうちに下した決断をあとから悔やんでいる人が、どちらの方向にもいるんですよね。
勢いで申し込んだ人は燃料が1か月で切れて教材が積まれたままになり、勢いでやめた人は半年後に「あと2点だったのに」と引きずっている。だから最初のすすめは単純で、合否を知った日から1〜2週間は、進退に関わる決定を何もしないことです。たいていの試験は次のチャンスまで時間があります。決めない、というのも立派な判断です。
点数差は、感情より正直
冷却期間が明けたら、まず点数を見てください。多くの試験は合否だけでなく、得点や科目別の成績を通知してくれます。見るのは一点、合格ラインとの差です。
あと数点で落ちていたなら、それは「惜しかった」という感想以上の情報を持っています。これまでの積み上げがちゃんと点数に出ていて、合格ラインのすぐ下まで来ているという証拠です。やり方を大きく変える必要はなくて、今のやり方をもう少し詰めるだけで届く可能性が高い。再挑戦の期待値はかなり大きいと、私は思います。
逆に、合格ラインまで大差があったなら、同じやり方をもう1年続けても届かない可能性のほうが高い。これは才能の話ではありません。教材が合っていなかったのか、勉強時間の見積もりが甘かったのか、計画のどこかがずれていたというサインです。再挑戦するなら、それは「作り直し」になります。そして作り直す気力が湧かないなら、それも大事な情報です。
撤退は敗北ではなく、損切り
撤退という選択肢は、もっとフラットに扱われていいと思っています。資格の世界にはどこか「一度始めたら受かるまで」という根性論の空気があるのですが、体験談を読んでいると、合わない試験からきっぱり撤退して別の資格に切り替え、そちらで受かって普通に活躍している人がたくさん出てきます。細かい暗記中心の試験が苦手で実技寄りの資格に移った人もいれば、その逆もいる。試験には形式の相性が確実にあって、相性の悪い土俵で消耗を続けるより、土俵を変えるほうが早いことがあるんです。
これまでにかけたお金と時間が惜しい、という気持ちはよくわかります。ただ、それはもう戻ってこない費用で、これから払う分とは別の勘定です。過去に払った分を理由に未来の分まで払い続けるのが、いちばん高くつくパターン。撤退は負けではなく、損切りという立派な判断です。
複数回受験が「普通」の試験もある
一方で、1回落ちたくらいで自分を疑う必要のない試験もあります。社会保険労務士や税理士のような難関になると、複数年かけて合格するのがむしろ多数派という世界です。合格者の体験談でも「2回目で受かった」「3年かかった」という書き出しはまったく珍しくありません。こういう試験での1回の不合格は、撤退を検討する材料というより、想定されていたコースの途中経過に近いものです。
自分の受けた試験がどちら寄りなのかは、合格率と標準的な勉強時間を見ればだいたい見当がつきます。それによって、同じ「不合格」という結果の重みがまったく違ってきます。
決めるのは、点数を見たあとの自分
まとめると、こうなります。合否を知った日には決めない。1〜2週間置く。成績通知が来たら合格ラインとの差を見る。僅差なら再挑戦の価値は大きい。大差なら計画を作り直すか、撤退も含めて考える。受けたのが複数回受験前提の難関なら、1回の不合格は織り込み済みの出来事として扱う。
そしてもし撤退して別の道を探すことにしたなら、感情が落ち着いたころに資格ランキングあたりを眺めて、今度は試験の形式や合格までにかかる年数も含めて選んでみてください。一度落ちた経験のある人の2回目の資格選びは、1回目よりだいたいうまいんです。体験談を読み続けてきて、これはけっこう確かだと感じています。