職業柄なのか、もう癖になってしまったのですが、資格講座の広告を見かけると、私はまずキャッチコピーではなく数字の注釈を探します。電車の中吊りでもWebのバナーでも、「合格率◯◯%」「合格者数No.1」と大きく書いてあったら、その近くのどこかにある小さい文字。あれを読むのが半分趣味みたいになっています。
先に断っておくと、これは広告を責める話ではありません。私が見てきた範囲で言うと、明らかな嘘の数字を載せている大手講座はまずありません。数字そのものは本物です。ただ、その数字が「誰を、どう数えたものか」が広告ごとにバラバラで、そこを読まないまま並べても比較にならない、という話です。
「合格率78%」の分母は誰なのか
たとえば「受講生合格率78%」という広告があったとします。素直に読めば「この講座を受けた人の78%が受かる」です。ところが注釈を見にいくと、分母の定義はだいたい次のどれかに分かれます。受講生全員なのか。カリキュラムを最後まで終えた修了者だけなのか。それとも、合否を尋ねるアンケートに回答してくれた人だけなのか。
この3つ、まったく違う集団なんですよね。途中で挫折した人は「修了者」には入りません。そしてアンケートというのは、受かった人のほうが圧倒的に答えたくなるものです。落ちた直後に講座のアンケートへ丁寧に回答してくれる人は、そう多くない。つまり分母が狭くなるほど、合格率は自然と高く出ます。嘘はどこにもないのに、です。
本試験全体の合格率が10%前後しかない試験で、講座の合格率が70%を超えている。そういう数字を見たら、感心する前に「この分母は誰だろう」と一拍置いてみてください。それだけで広告の見え方はかなり変わります。
「合格者数No.1」は「受講者数が多い」の言い換えでもある
もう1つの定番が「合格者数No.1」です。これも事実なのですが、構造を考えると見え方が変わります。受講者数がいちばん多い講座は、合格率が平凡でも、合格者の頭数ではトップになれるんです。極端な話、1万人が受講して2割受かれば合格者2,000人。100人が受講して8割受かる講座でも80人。合格者数で並べれば前者の圧勝です。
誤解しないでほしいのですが、「合格者数が多い」がまったく無意味だとは思っていません。それだけの人数を集め続けているということは、教材が破綻していない、運営が続いているという証明にはなります。ただ、「自分が受かりやすいかどうか」については、ほとんど何も言っていない。選ばれている証拠と、受かりやすい証拠。この2つは分けて受け取る必要があります。
いちばん情報量があるのは、いちばん小さい文字
というわけで、広告で本当に読む価値があるのは、大きなコピーではなく隅っこの調査条件です。「2024年度当社調べ」「合否報告者のうち」「対象は初回受験の方」。この数行に、その数字の正体がぜんぶ書いてあります。読み慣れてくると、注釈だけでその講座がどの層を得意にしているかまで、なんとなく透けて見えてきます。
逆に言うと、調査条件をきちんと書いてある広告は、誠実な部類だと私は思っています。条件を明示するということは、外から検証されても困らないということなので。条件がどこにも見当たらない景気のいい数字のほうが、よほど扱いに困ります。
講座選びで本当に比べるべきもの
では結局、講座は何で比べればいいのか。私のおすすめは、数字ではなく現物です。まず教材のサンプル。たいていの講座は講義動画の一部やテキストの見本を無料で公開しています。講師の話すテンポ、紙面の文字の密度、図の多さ。こういうものが自分に合うかどうかは、広告の合格率より何倍も合否に効きます。合わない教材は、どんなに評判がよくても開かなくなりますから。
次に質問対応です。回数に制限はあるか、返事は何日で返ってくるのか。独学と講座の最大の違いは「詰まったときに聞ける」ことなので、ここが薄い講座にお金を払う意味はけっこう減ります。最後に、返金や受講期間延長の条件。落ちたとき、続けられなくなったときに何が起きるかは、申し込む前にしか確かめられません。うまくいかなかった場合の話を契約前に確認するのは、縁起の悪いことではなく、ただの実務です。
それから、講座を比べる前に「そもそもどの資格を受けるか」で迷っている段階なら、先にそちらを片付けるのが順番です。当サイトの資格の比較ツールでは合格率や勉強時間の目安を横に並べて見られます。こちらの合格率は実施団体の公表値ベースなので、少なくとも「分母は誰なのか」で悩む必要はありません。広告の数字を読む前に、まず試験そのものの数字を知っておく。それがいちばん広告に強くなる方法だと思います。