当サイトの各資格ページには「国家資格」「公的資格」「民間資格」という区分が載っています。この区分データの登録と更新も私の仕事なのですが、白状すると、1,300を超える資格をこの3つに仕分けしてきた今でも、資格の名前だけを見て区分を当てる自信がありません。やってみると分かりますが、これ、本当に当たらないんです。
毎日この区分とにらめっこしている人間ですらそうなのですから、はじめて資格を調べる人が名前の雰囲気で「これはちゃんとした公的なやつだろう」と判断してしまうのは、もう仕方のないことだと思うんです。今日は、その名前の印象がどれくらい当てにならないかという話と、じゃあ代わりに何を見ればいいのかという話をします。
立派な名前の民間資格と、地味な名前の国家資格
データを登録していて何度も遭遇するのが、「認定」「協会」「一級」といった堂々とした語の並ぶ、いかにも公的に見える名前の民間資格です。名前だけ読むと法律に基づく制度のように見えても、運営しているのは一般の団体で、区分としては民間資格、というケースは珍しくありません。考えてみれば当然で、資格の名前のつけ方そのものは、誰にもほとんど規制されていないからです。立派な名前は、つけようと思えば誰でもつけられます。
逆のパターンもあります。たとえば衛生管理者。名前だけ見ると社内の係のような響きですが、これは労働安全衛生法に基づく国家資格で、一定規模以上の事業場では選任が法律で義務付けられています。危険物取扱者もそうです。ガソリンスタンドの求人でよく見かける地味な存在に見えて、消防法に根拠を持つれっきとした国家資格で、ないと扱えない仕事がはっきり決まっています。
つまり、名前の華やかさと法的な裏付けの強さは、まったく連動していません。連動していないどころか、データを眺めていると、ときどき逆相関なんじゃないかと思う瞬間すらあります。法律に根拠のある資格は、名前を盛って人を集める必要がない、ということなのかもしれません。
「公的資格」という箱が、またあいまい
もうひとつ白状すると、まんなかの「公的資格」という箱が、実はいちばんあいまいです。これは法律で定義された言葉ではなく、省庁や自治体が後援している、商工会議所のような公的団体が実施している、といった事情から慣用的にそう呼ばれているだけのカテゴリです。どこからどこまでが公的資格なのか、はっきりした線引きはどこにもありません。サイトによって、同じ資格が公的資格と書かれていたり民間資格と書かれていたりするのは、このためです。
区分を整備している側として申し訳ない気持ちもあるのですが、この3区分は、資格の世界をざっくり整理するための棚であって、厳密な品質表示ではない。まずこれを知っておいてもらえると、資格選びで変に振り回されずに済みます。
民間資格が悪い、という話ではない
誤解してほしくないのですが、これは「民間資格は怪しい」という話ではありません。実用英語技能検定、つまり英検は民間の検定ですし、TOEICも民間です。日商簿記も商工会議所が実施する検定で、国家資格ではありません。それでも履歴書の上での通用度は、そのへんの知名度の低い国家資格よりよほど高い、ということが普通にあります。
結局のところ、資格の通用度を決めているのは区分そのものではなく、歴史の長さと、受験者数と、採用側がその名前を知っているかどうかです。何十年も続いて毎年何十万人も受けている民間検定と、できたばかりで誰も知らない資格とでは、書類の上での重みがまるで違います。区分は品質保証のラベルではないんですね。だから「国家資格だから安心」「民間資格だから微妙」という読み方は、どちらの方向にも外れます。
ただし、民間資格を検討するときに確認してほしいことはあります。受験料のほかに、登録料や年会費、数年ごとの更新料がかかる設計になっていないか。講座の受講が受験の条件になっていて、実質的なコストが受験料の何倍にもなっていないか。こういう設計そのものは別に違法でも悪でもないのですが、知らずに入ると「思ったよりお金がかかり続ける」ということになりがちです。取る前に、生涯コストまで見ておくのがおすすめです。
本当に見るべきは、「独占」があるかどうか
では名前でも区分でもなく、何を見ればいいのか。私が区分の欄よりよほど大事だと思っているのは、その資格に法律上の「独占」がついているかどうかです。これは大きく3種類あります。
ひとつ目が業務独占。その資格がないと、その仕事を法律上やってはいけない、というタイプです。電気工事士でなければ一般住宅の電気工事はできませんし、税務代理は税理士の独占業務です。資格が文字どおり、仕事の免許になっています。
ふたつ目が名称独占。仕事そのものは資格がなくてもできるけれど、その名称を名乗れるのは有資格者だけ、というタイプです。保育士や介護福祉士がこれにあたります。一見ゆるそうに見えますが、求人の応募条件に資格名がそのまま書かれる業界では、名乗れるかどうかがそのまま応募できるかどうかになります。実質的には、これも仕事への扉です。
みっつ目が必置、いわゆる配置義務です。事業所ごとに有資格者を置かないと営業ができない、というタイプ。不動産屋における宅建士、医薬品を扱う店舗における登録販売者、そして先ほどの衛生管理者。会社の側が「置かなければならない」ので、持っている人への需要が法律によって発生し続けます。求人が途切れにくいのは、たいていこのタイプです。
この3つのどれかを持っている資格は、区分が何であれ、労働市場の中に指定席があります。逆にどれも持っていない資格は、たとえ国家資格であっても、効き目はその資格の知名度と中身次第です。名前でも区分でもなく、独占の有無こそが資格の効き方を分けているというのが、データを毎日見ている私の実感です。
調べるときの、おすすめの順番
なので、気になる資格を見つけたら、名前の印象と区分はいったん脇に置いて、3つの質問を順番に確認してみてください。この資格がないとできない仕事はあるか。この資格がないと名乗れない名称はあるか。この資格を持つ人を置かないと営業できない場所はあるか。
3つとも「ない」なら、その資格の価値は法律ではなく市場が決めます。その場合に見るべきは、歴史と受験者数と、応募したい業界でその名前が通じるかどうかです。求人サイトでその資格名を検索してみて、応募条件や歓迎条件にどれくらい登場するかを数えてみるのが、いちばん手っ取り早くて確実な確かめ方だと思います。一件も出てこない資格名は、少なくとも転職の道具としては、まだ市場に席がないということです。
当サイトの各資格ページにも、国家・公的・民間の区分は載せています。載せておいてこう言うのも変な話ですが、あの一行はあくまで入口です。区分のラベルで安心したり警戒したりする前に、その資格が法律の中でどんな席を持っているのか、一段だけ深く見てみてください。名前の立派さに払うお金と時間が、資格選びでいちばんもったいない出費なので。