1,300を超える資格のデータを整備していると、毎週のように手が止まる瞬間があります。「あれ、この資格、さっき更新したやつと何が違うんだ?」というやつです。名前がそっくりなのに、主催団体も試験内容もまったくの別物、という資格が世の中には想像以上にたくさんあります。一文字しか違わないもの、漢字の並び順が入れ替わっただけのもの、まったく同じ通称で呼ばれている別の検定。毎日この棚卸しをしていると、よくここまで似せられるなと妙な感心すらしてしまいます。
データ担当としては登録ミスが怖いので、必ず主催団体の公式サイトまでさかのぼって確認するのですが、白状すると、毎日この仕事をしている私でも一瞬どっちがどっちか分からなくなることがあります。だとしたら、初めて資格を調べる人が取り違えるのは、もう不注意というより構造の問題だと思うんです。今日はその話をします。
「簿記2級」と言ったとき、どの簿記の話をしていますか
いちばん分かりやすい例が簿記です。「簿記」と名の付く検定は、実はひとつではありません。日本商工会議所が主催する日商簿記検定、全国経理教育協会の全経簿記能力検定、全国商業高等学校協会の全商簿記。少なくともこの3つが並走していて、主催も級の体系も試験日も別々です。
世間で「簿記2級持ってます」と言えば、ほぼ間違いなく日商簿記の2級を指します。求人の応募条件に書かれている「簿記2級以上」も、たいていは日商の想定です。でも、全経にも全商にもちゃんと2級は存在します。高校の商業科で全商簿記を取った人が履歴書に「簿記2級」と書いて、面接で話が微妙に噛み合わなかった、という体験談を読んだことがあります。どの簿記も真面目な検定なのに、世間の「簿記2級」という言葉が事実上日商を指してしまっているせいで、こういうすれ違いが起きるわけです。
さらにややこしいことに、級の高さの対応もずれています。一般に全経の上級が日商1級と並ぶレベルとされていて、同じ「2級」という名前が、団体をまたぐと同じ高さを意味しません。名前だけ見て「同じようなものでしょ」と思って教材を買うと、だいぶ景色の違う試験に向かって歩き出すことになります。
データを更新する側の事情を言うと、合格率も当然それぞれ別に発表されます。ネットの記事ではこれが時々ごちゃ混ぜに引用されていて、「簿記2級の合格率は◯%」という記述を見つけても、どの簿記のどの回の話なのか特定するところから作業が始まります。名前の重複は、調べる側のコストを地味に、しかし確実に増やしているんです。
同じ国家資格なのに、申込窓口が2つあるケース
逆方向のややこしさもあります。ファイナンシャル・プランニング技能士は国家資格ですが、試験を実施している団体が2つあります。学科試験は共通でも、実技試験で選べる科目の構成が団体ごとに違う。同じ資格なのに、どちらの窓口から申し込むかで試験の中身が一部変わるわけです。初めて調べた人が「どっちで受ければいいの?」と戸惑うのは当然で、体験談を読んでいても、勉強を始める前にまずこの交通整理でつまずいたという話がちらほら出てきます。
しかもFPの世界には、これとは別に民間団体の認定資格もあります。「FPの資格を取りたい」という一文の中に、国家資格の1〜3級と民間の認定資格がぜんぶ混ざっている。検索結果もそのぶん混線します。
この手の資格は、データを預かる側としてもかなり気をつかいます。団体ごと、科目ごとに合格率が別の値で出てくるので、どの数字を「この資格の合格率」として載せるかという判断が毎回ついて回る。あなたがネットで見かけた合格率と、別のサイトの合格率が食い違っているとき、どちらかが間違っているとは限りません。違う窓口の数字を見ているだけ、ということがよくあります。
国家資格に、よく似た名前の民間資格
そしてここからが、少し言いにくい話です。国家資格とそっくりな名前の民間資格、というジャンルが存在します。「◯◯士」「◯◯管理士」「◯◯診断士」あたりの語感は、正直なところ名前だけでは国家資格か民間資格か判別できません。実際には法律に根拠のある国家資格もあれば、一般の団体が独自に認定している民間資格もあって、名前の風格と法的な位置づけは、ぜんぜん比例しないんです。同じ分野に国家資格の「◯◯管理士」と民間資格の「◯◯管理士」が並んでいることすらあります。
誤解してほしくないのですが、民間資格が悪いという話ではありません。中身の充実した民間検定はたくさんありますし、当サイトでも多数扱っています。問題は、受験者側が「国家資格だと思って」申し込んでしまうケースです。取ったあとで気づいても、勉強した内容が消えるわけではないにせよ、想定していた使い道――独占業務や法律上の配置義務――は民間資格にはついてきません。
一文字違いも要注意です。「士」と「師」が入れ替わるだけで別の資格、ということは普通にあります。社会福祉の分野には「社会福祉士」という国家資格と「社会福祉主事」という任用資格が並んでいて、これも名前は似ているのに性質はかなり違う。福祉や医療の現場で働く人ですら言い間違える、と体験談に書かれているくらいですから、外から調べる人が混乱しないほうがおかしいんです。
取り違えの事故は、実際に起きています
体験談を読みあさっていると、「申し込んでから気づいた」という話には定期的に出会います。申込完了メールに書かれた団体名に見覚えがなくて検索し直したら、受けたかった試験とは別物だった、というパターン。教材を一冊やり終えたあとで、その教材が別団体の試験用だったと気づいた、という胃の痛くなる話もありました。
受験料は数千円から1万円を超えるものまでありますし、一度払った受験料は基本的に戻ってきません。お金だけならまだしも、その試験日に合わせて組んだ数か月の勉強計画ごと宙に浮いてしまう。次の試験日が半年後なら、失うのは受験料ではなく半年です。
悪意のある紛らわしさなのか、たまたま名前が似てしまっただけなのかは、正直、外から判別がつきません。ただデータを扱う側から言えるのは、どちらであっても受験者側の防御方法は同じだ、ということです。
申し込む前に見るのは、資格名ではなく主催団体名
おすすめしたい習慣はシンプルで、資格名で検索したら、申し込む前に必ず主催団体の名前まで確認することです。「この試験は誰が実施しているのか」。これを一度確かめるだけで、取り違え事故はほぼ防げます。国家資格なら根拠になる法律と所管の省庁があり、民間資格なら認定団体があります。資格名は重複しても、主催団体名まで重複することはまずありません。
通称で覚えている資格ほど、この確認が効きます。たとえば世間で「英検」と呼ばれているのは実用英語技能検定という検定で、「◯◯英語検定」と名の付く試験は他にもいくつもあります。「秘書検定」も正式には秘書技能検定試験。通称しか知らないと、似た名前の別の検定と区別する手がかりが自分の中にないんです。
もうひとつ、求人がきっかけで資格を取る人は、応募条件に書かれた資格名がどの団体のどの級を指しているのかを、応募先に確認しておくと安全です。「簿記2級」のように通称が一人歩きしている資格ほど、書いた側と読んだ側の想定がずれている可能性があります。
せっかく何か月も勉強するのですから、その勉強が向かう先の試験を、最初の5分で確定させておきましょう。当サイトの各資格ページにも主催団体名を載せていますので、同名・類似名の資格に出くわしたときの照合に使ってもらえたらうれしいです。