このサイトのデータ項目には「受験料」という欄があって、各団体の改定を追いかけて更新するのも私の仕事です。数千円の検定から数万円かかる試験まで、毎日この数字を眺めているわけですが、白状すると、この欄を更新するたびに少し後ろめたい気持ちになります。受験料という数字は、資格にかかるお金のほんの入り口にすぎないからです。
受験料が氷山の一角だとしたら、水面の下には何が沈んでいるのか。今日はそれを、普段から数字と体験談を見ている立場で、隠さず全部書き出してみようと思います。
まず教材費と講座費。たいてい本体より高い
いちばんわかりやすい水面下が、勉強そのものにかかるお金です。受験料が数千円の試験でも、参考書と過去問題集と模試をそろえれば1万円前後にはなりますし、通信講座や予備校を使うなら数万円から十数万円、難関資格では数十万円という世界になります。受験料の何倍、ものによっては何十倍です。
しかもこれは「1回で受かれば」の金額です。年1回の試験に2回目の挑戦をするなら、教材の買い直しや講座の継続費がもう1周分かかります。体験談で「トータルでいくら使ったか怖くて計算していない」という一文を見かけるたびに、ああ、やっぱりみんな受験料しか見ずに始めるんだなと思います。
地方在住者だけが払う「距離の料金」
見落とされがちなのが交通費です。試験会場が都道府県庁所在地に1か所だけ、あるいは全国でも大都市の数か所だけ、という試験は珍しくありません。データ上は同じ受験料でも、会場まで電車で30分の人と、特急や飛行機を使う人とでは、実際の出費がまるで違います。
さらに、年1回しかない試験だと前泊がほぼ標準装備になります。当日の朝の交通機関の乱れで1年を棒に振るリスクは、誰も取りたくないからです。交通費と宿泊費を足すと受験料本体を軽く超えた、という話はよくあります。これは試験のせいでも本人のせいでもないのですが、受験料の欄には決して載らないお金です。住んでいる場所によって資格の値段が変わる、という現実は、もう少し知られていいと思っています。
合格してからのお金の話
そして、いちばん驚かれるのがここです。資格には「合格したら名乗れる」ものと、「合格してから登録や免許申請をして初めて名乗れる」ものがあって、後者の手続きはたいてい有料です。体験談でも「合格できたのに、登録にかかる額を見て固まった」という報告は定番中の定番です。
わかりやすい例が行政書士で、試験に受かっただけでは行政書士を名乗って仕事はできません。実際に開業するには登録が必要で、入会金などを合わせると数十万円規模のお金がかかることが知られています。受験料と比べると桁がひとつ違う。試験勉強を始める前にこれを知っていたかどうかで、合格後の景色はだいぶ変わるはずです。
ここまで極端でなくても、登録手数料や免許申請料、登録時の講習費が数千円から数万円かかる資格はたくさんあります。合格はゴールではなく、レジに並んだ段階、くらいに思っておいたほうが安全です。
持っているだけでかかるお金もある
登録して終わり、でもありません。士業には所属団体の年会費があるのが普通ですし、資格によっては更新の仕組みがあります。たとえば介護支援専門員(ケアマネジャー)は5年ごとの更新制で、所定の研修を受けないと資格が失効します。研修には受講料がかかり、何日も時間を取られます。
つまり資格には、買い切り型とサブスク型があるんです。維持費のかかる資格は、現役で使っている人には必要経費でも、使っていない人にはただの固定費になります。体験談には「もう使っていないのに年会費だけ払い続けている」という声もあれば、思い切って登録を抹消した、という声もあります。使っていない資格の維持をやめるのは敗北ではなくて、ただの家計の整理です。そういう判断があっていい。
「名乗れるようになるまでの総額」で考える
というわけで、私からのすすめです。気になる資格が見つかったら、受験料だけを見て「安いから受けてみよう」と決める前に、紙でもスマホのメモでもいいので、ざっくりした足し算をしてみてください。教材費または講座費、受験料、会場までの交通費と必要なら宿泊費、合格後の登録や申請にかかるお金、そして初年度の会費や更新の費用。この合計が、その資格を名乗れるようになるまでの本当の値段です。
総額を見て、それでも取りたいと思えるなら、その資格はたぶんあなたにとって本物です。逆に総額を見た瞬間に気持ちが冷めるなら、それは早めにわかってよかった話で、損ではありません。資格ランキングで人気の資格を眺めるときも、頭の中にこの足し算をひとつ置いておくと、見え方が少し変わると思います。受験料は入場券の値段であって、旅の総額ではない。データ係からの、正直なお願いでした。