資格の体験談を毎日読んでいると、人がどこで挫折するのか、その場所がだいたい分かってきます。意外に思われるかもしれませんが、いちばん人が消えるのは試験の直前ではありません。テキストの1周目です。「最初の数章で止まったまま試験日が過ぎた」「気づいたら参考書が本棚の飾りになっていた」という話の、なんと多いことか。
そして挫折した人の話を読み込むと、かなりの割合で同じ計画を立てています。「まずテキストを完璧にして、仕上げに過去問を解く」。一見まっとうに見えるこの順番が、実はけっこう危ないんじゃないか、というのが今日の話です。
「テキストを完璧にしてから」は、なぜ終わらないのか
テキストというのは、試験範囲を網羅するように作られています。出版する側からすれば「この論点が載っていなかった」と言われるわけにはいかないので、当然そうなります。結果として、10年に一度しか出ない論点も、毎年必ず出る論点も、紙面の上では同じ顔をして並ぶことになる。初学者にはどこが重要なのか判別できませんから、全部を同じ濃度で読むしかありません。
すると、1周目がとにかく重くなります。進んでも進んでも先が見えず、後半に差しかかる頃には前半を忘れている。しかも「完璧にしてから」という計画は、完璧の基準が自分の中にないので、いつまで経っても次の段階へ進む許可が出ません。2章に戻り、また3章で止まり、を繰り返しているうちに試験日が来てしまう。そして多くの人が「自分には向いていなかった」と結論を出して消えていきます。本当は向き不向きの前に、順番の問題だったかもしれないのに、です。
過去問は力試しの道具ではなく、地図
過去問を最後に取っておく人は、過去問を「実力を測る模試」だと思っています。気持ちは分かります。私も昔はそうでした。もったいないから本番直前まで取っておこう、という感覚です。でも過去問のいちばんの価値は別のところにあって、それは「この試験が、何を、どの深さで、どんな形式で聞いてくるか」を教えてくれる地図だということです。
最初に過去問を開くと、3つのことが分かります。まず出題形式。択一なのか、記述があるのか、計算問題の比重はどれくらいか。次に、問われる深さ。用語の定義を覚えていれば取れるのか、それとも事例にあてはめて考えさせられるのか。この深さが分かるだけで、テキストをどこまで読み込めばいいかの基準ができます。そして最後に、分野の偏り。試験というのは意外なほど「いつもの場所」から出ます。数年分を眺めるだけで、頻出分野は勝手に浮かび上がってきます。
この3つを知ってからテキストに戻ると、読み方が変わります。さっきまで同じ顔をして並んでいたページに、急に濃淡がついて見える。ここは毎年出るから精読、ここは滅多に出ないからいったん流す、という判断が自分でできるようになるんです。同じテキストなのに、別の本みたいになります。1周目の重さが、ここでまるで違ってきます。
解けなくていい、眺めるだけでいい
こう言うと、「勉強する前に過去問なんて解けるわけがない」と思われるはずです。そのとおりです。解けなくていいんです。解くのではなく、眺める。
問題文を読んで、考え込まずにすぐ答えと解説を読む。1回分を読み物として流し読みする。かかっても1〜2時間で、それだけで十分です。0点でへこむ必要もありません。採点しないんだから、そもそも0点ですらないわけです。
それでも抵抗がある人は多くて、その気持ちの正体はたぶん「歯が立たない自分を見たくない」です。これも分かります。でも、最初に歯が立たないのは当たり前で、そこには何の情報もありません。それよりも「どんな歯が立たないのか」のほうに情報が詰まっています。言葉の意味が分からないのか、計算の手順が分からないのか、そもそも問題文が何を聞いているのか分からないのか。つまずきの種類が分かれば、最初に補強すべき場所も分かります。
ありがたいことに、問題を公式に公開している試験は少なくありません。基本情報技術者試験のようにサンプル問題が公開されている試験もあれば、ファイナンシャル・プランニング技能士のように過去の試験問題が実施団体のサイトで読める試験もあります。つまり、テキストを1冊も買う前に、タダで地図が手に入る。これを使わない手はないと思うんです。
ゴールから逆算すると、計画そのものが軽くなる
順番を入れ替えると、勉強の全体像はこう変わります。最初に過去問を眺めて、地図を手に入れる。テキストは頻出分野から、濃淡をつけて読む。ある程度読んだら、完璧になるのを待たずに過去問演習へ入って、間違えた箇所だけテキストに戻る。きれいな1周を1回やるのではなく、雑な往復を何度も繰り返す。テキストは読破する本ではなく、引きに戻る辞書になっていきます。
体験談のデータを横断して見ていても、合格した人の勉強法は細部こそバラバラなのに、「早い段階から過去問を中心に回した」という一点ではかなり共通しています。逆に「テキストを完璧にしてから挑むつもりだった」という言葉は、悔しいことに、不合格側の話のほうでよく見かけます。ゴールの形を知らないままスタートから走り始めるのは、地図を持たずに山に入るのと同じなんですね。真面目な人ほど1ページ目から順番に読み込んでしまうので、この罠は真面目な人ほどよく効きます。
今日できる、いちばん小さい一歩
なので、これから資格の勉強を始める人へのおすすめは、とても具体的です。テキストを買う前に、なんなら申し込みを済ませる前に、その試験の過去問かサンプル問題を1回分だけ眺めてみてください。かかる時間はせいぜい1〜2時間、費用はゼロです。受けるかどうか迷っている段階でも、むしろ迷っている段階だからこそ、先に見ておく価値があります。
眺めてみて「これなら戦えそう」と感じたら、それが勉強開始の合図です。逆に「これは想像と違った」と感じたら、それも立派な収穫です。何万円も教材につぎ込んで何か月も経ったあとではなく、始める前に分かったのですから。もしそこで資格選びからやり直したくなったら、当サイトの資格ランキングあたりから次の候補を探してみてください。過去問は最後の力試しに取っておくには、もったいなさすぎる資料です。最初の1〜2時間を、ぜひ過去問に。