資格のリターンでいちばん地味で、いちばん確実なのは「資格手当」だと思う

資格を取るとどんないいことがあるのか、という話になると、転職で年収が上がったとか、独立して一国一城の主になったとか、景気のいいエピソードがまず出てきます。私はこのサイトで1,300を超える資格の合格率や勉強時間といったデータを毎日収集・更新している係で、ついでに合格後の体験談もしこたま読んでいるのですが、読んでいる量から正直に言うと、その手の派手な成功談はかなりの少数派です。

その代わり、地味だけれど驚くほどコンスタントに出てくる報告があります。「資格手当が月数千円ついた」。たったそれだけの、誰も自慢しない報告です。SNSでバズることもないし、合格体験記の見出しにもなりません。でも数を読んでいると、再現性という点ではこれが頭ひとつ抜けている。今日はこの、資格のリターンのなかでいちばん地味で、たぶんいちばん確実なやつの話をさせてください。

派手なリターンは、運の要素が大きすぎる

転職や独立は、当たれば大きいです。ただ冷静に考えると、資格はその材料のひとつでしかありません。面接の相性、応募のタイミング、業界の景気、募集枠の有無。自分ではどうにもならない要素が何層にも絡んだうえで、最後の結果が決まります。資格を取ったのに転職市場では思ったほど響かなかった、という体験談も、白状するとけっこうな数を読んでいます。資格が悪いのではなく、転職という勝負ごとのなかで資格が占める割合が、思われているより小さいんです。

一方の資格手当は、会社の賃金規定に「この資格の保有者には月いくら支給する」と書いてあるだけの、夢もロマンもない制度です。金額の相場も、月数千円から、手厚い会社や資格でも数万円といったところ。それだけで人生が変わる額ではありません。

でも、ここが今日いちばん言いたいところなのですが、規定に載っている手当は、条件を満たせばほぼ自動的に、毎月支払われます。面接官の心証も、景気も、上司の機嫌も関係ない。資格のリターンのなかで、ここまで不確実性の低いものを私はほかに知りません。宝くじと定期預金くらい性格が違うのに、資格の話では宝くじのほうばかりが語られている気がします。

年額に直して、勉強時間で割ってみる

月5千円と聞くと「それだけ?」ってなる気持ちは分かります。私も最初に体験談で見たときは、正直、桁を読み間違えたのかと思いました。ただ、手当のいいところは、一度ついたら基本的に毎月出続けることです。ボーナスのように業績で消えたりもしにくい。月5千円なら年6万円。同じ会社に10年いれば60万円。更新が不要なタイプの資格なら、最初に勉強した時間がそのあとずっと利息を生み続ける格好になります。

これを勉強時間で割ってみると、見え方がさらに変わります。たとえば危険物取扱者の乙種4類は、体験談を読むかぎり数十時間の勉強で手が届く人が多い試験です。仮に50時間ほどかけて月数千円の手当がついたとすると、1年目の時点でもう「時給」としてそう悪くない水準になり、2年目からは追加の勉強ゼロ時間で同じ額が乗り続けます。勉強という投資の利回りで考えると、かなり優秀な部類です。ガソリンスタンドや工場、ビルメンテナンスのように乙4の手当が定番になっている業界では、この計算が成り立つことを現場の人はみんな知っていて、だからあの試験は毎回あれだけの人数が受けにくるんだと思います。

逆に、何百時間もかかる資格を取っても、手当の額が数十時間で取れる資格とあまり変わらない、という会社も普通にあります。どちらがいい悪いという話ではなく、「かけた時間に対して、何が、いつから返ってくるのか」を一度でも割り算してみると、資格選びの景色がけっこう変わる、ということです。難関資格の何百時間をかける前に、電卓を叩く30秒をかけてほしいんです。月額に12を掛けて、想定の勉強時間で割る。それだけです。

自社の手当一覧を、見たことがありますか

ここで少し意地悪な質問をします。あなたは自分の会社の資格手当の一覧を、見たことがあるでしょうか。どの資格にいくらつくのか、3つ挙げられるでしょうか。これ、答えられる人が本当に少ないんです。

白状すると、私自身この仕事を始めるまで、自分の勤め先の賃金規定をまともに読んだことがありませんでした。そして体験談を読んでいると、同じ人が本当にたくさんいます。資格を取ったあとで「うちの会社、これ手当が出たのか」と総務に言われて初めて気づいた人。逆に、出るものと思い込んで取ったら対象外で、申請の窓口でがっかりした人。どちらも、順番が逆なんですよね。何百時間を投じる先を決めるのに、手元にある一次情報を確認しないまま、ネットの「稼げる資格ランキング」だけを眺めてしまう。自分の会社の規定のほうが、あなたにとってはよほど精度の高いランキングなのに、です。

賃金規定や就業規則は、社内のどこかに必ずあります。イントラネットの奥か、総務の棚か。従業員が見せてくださいと言って断られる筋合いのものでもありません。資格の勉強を始める前に読むべき書類としては、どんな参考書よりも先だと私は思っています。ついでに言うと、月額の手当のほかに、合格時の一時金や受験料の補助を出す会社もあります。一時金は一回きりですが、これも規定に書いてあれば確実に出るお金です。読まないともらい損ねます。

手当の一覧は「会社が欲しい資格のリスト」でもある

もうひとつ、手当一覧にはデータとしての読み方があります。会社がわざわざ毎月お金を払ってまで社員に持っていてほしい資格には、ちゃんと理由がある、ということです。

有資格者がいないと受けられない仕事がある。入札の条件になっている。法律で配置が義務づけられている。たとえば衛生管理者のように、一定規模の事業場で選任が義務になっている資格は、その典型です。会社としては誰かに持っていてもらわないと困るから、手当という形で社内に募集をかけているわけです。求人票が社外向けの募集なら、手当一覧は社内向けの求人票です。そう読むと、あの無味乾燥な表が急に意味を持って見えてきませんか。

だから手当つきの資格を取るというのは、会社が困っている穴をピンポイントで埋めにいく行為でもあります。月数千円の手当の向こう側で、「この人はうちの事情が見えている」という評価が静かについてくる。昇進や異動の場面でじわっと効いてくるのは、むしろこちらかもしれません。規定のどこにも書かれていないリターンです。

ただし、手当は「申請主義」だという落とし穴

ここまで手当のいいところばかり書いてきたので、データ係として注意点も正直に書いておきます。資格手当のほとんどは申請主義です。つまり、合格しただけでは1円も出ません。合格証の写しを添えて、自分から会社に届け出る必要があります。会社のほうから「おめでとうございます、来月から手当をつけますね」と気づいてくれることは、まずないと思ってください。取ってから何年も申請を忘れていて、しかも遡っては払ってもらえなかった、という切ない体験談も読んだことがあります。

それから、規定の細かい条件もくせものです。同じ資格でも級によって対象が分かれていたり、「業務に関連する場合に限る」という一文がついていたり、複数の資格を持っていても手当の合計に上限が設けられていたり。更新講習が必要な資格の場合、その費用が会社持ちなのか自腹なのかも、長い目で見ると効いてきます。このあたりは規定の本文を一字一句読まないと分かりません。読む価値のある一字一句です。

あとは身も蓋もない話ですが、手当の制度は会社の都合で変わります。業績や制度改定で一覧から消える資格もあります。だから手当「だけ」を目当てに何百時間級の資格に突っ込むのは、ちょっと危うい。手当は確実なリターンですが、確実なのはあくまで「いまの規定が続くかぎり」です。勉強時間が短めの資格から拾っていくのが手堅いと私が思うのは、この理由もあります。

転職サイトを開く前に、賃金規定を開く

というわけで、今日の具体的なおすすめはひとつだけです。次の休みにでも、自社の賃金規定の資格手当のページを開いてみてください。転職サイトに登録するより先に、です。いまの会社への評価が変わるかもしれませんし、変わらなかったとしても、それはそれで判断材料になります。転職で年収を上げる話と、いまの会社で手当を拾う話は、別に二者択一ではありません。ただ、確実なほうを確認もせずに不確実なほうへ飛び込むのは、順番としてもったいないと思うんです。

一覧を眺めて、手当額と勉強時間を見比べて、割のよさそうなものがあれば候補にする。一覧そのものが存在しない会社だと分かったら、それはそれで「うちは資格にお金を払わない会社だ」という大事な情報です。その場合は、いよいよ転職サイトを開く順番が回ってきます。確認したうえでの行動なら、それはもう飛び込みではなく作戦です。

候補になった資格の勉強時間や難易度を横に並べたいときは、当サイトの比較ツールが使えます。手当一覧とにらめっこしながら、いちばん「時給」のいい一枚を探してみてください。派手な逆転の物語にはなりませんが、地味な割り算を積み上げる取り方が、データを見ているかぎり、いちばん裏切られません。

マサキ
マサキ
編集・分析担当
国家資格・民間資格あわせて1,300超の試験データを管理しながら、合格者ブログ・体験談・SNS投稿を日々読み込んでいます。公式統計だけでは見えない「実際の手応え」「つまずきポイント」を受験生視点で記事に落とし込むのが担当です。

一次情報は各試験実施機関の公式サイトと公的統計を基本とし、体験談ベースの記述は複数記事で裏付けが取れたものだけを採用。資格選びで遠回りや後悔をしない判断材料を提供することを目的にしています。
マサキ
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